河端かほる「迷子ごっこ」読了

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佳い本に出会えました。
これは、河端(旧姓 井出)かほるさんという多分ごく普通の主婦が書いた、手記・エッセイです。極めて個人的なことどもを綴ったもので、ひょんなことからgetして読み始めたのはいいが、あまりにプライヴェート過ぎるので、中断しなければいいなと思ってるうちに、すう~っと
引き込まれていました。

著者は、本当は出版することなど考えていなかったようで、長姉、次姉、本人と、たった3冊
だけ本にしたかったようです。それが、従妹の一人の協力で砂子屋書房という版元が出版
してくれたとのことです。

内容ですが、著者の4,5才から12才くらいまでの生活を、自分のことをママと称して、ご自
分の子供達に語りかける体裁をとっています。

彼女の家庭は当時の所謂中流階級に属するもので、お父さんは電機関係の会社に勤める
技術者のようです。贅沢はしないが、物質的には何不自由なく育ったようです。
躾もちゃんと出来ているようで、「お父さんが○○してくださった」というような表現が多くて
好感がもてる。
ただ、「お母さん」という言葉が出てこない。「下駄を買ってくださった女の人は・・・」とか
「ママ(かほるさん)の手を引いている背の高い女の人の顔を見上げて・・・」とか
「ママは女の人の枕もとでよくお話をしました」とか「その人は・・・」というように書いています。
母、井出徳代さんは写真をみると本当に華奢で痩せて弱〃しい女性のようで、昭和7年に、
33才の若さで亡くなっている。著者が僅か5才の時です。
ここは「春が来たのに」という章で述べられていますが、小生何回か読み直しても必ずここ
で涙が出てくるのを止めることができませんでした。今も書きながら少し涙ぐんで・・・

彼女の長姉は喜代子、次姉は不二江という名ですが、著者はチビなので、キョンちゃん、フジ
ョンちゃんと呼んでいます。
多分、お母さんが病弱だったからか、キョンちゃんは12才まで、お父さんの実家の信州の
おじいさんの家で育ち、この時やっと3人は顔を合わせます。それまではお父さん、フジョン
ちゃん、かほるちゃんだけの暮らしでした。

とてもやさしい文章で、子供達だけの世界、ちょっと垣間見た大人達の世界を綴っています。
お父さんのこと、叔父さんのこと、おじいさんのこと、近所のこと、従兄弟姉妹達のこと、犬の
こと、遊びのこと、女中さんのこと、身の回りのことども、そして勿論キョンちゃん、フジョンちゃんのことを、やさしくやさしく語りかけています。
タイトルの、迷子ごっこ は、楽しい子供の遊びの一つから取っています。
彼女の家は、どうも小石川あたりにあったようで、すぐ近くには徳川慶喜や渋沢栄一の大きな
お屋敷があったようです。渋沢栄一が大礼服に身を堅め宮中へ参内するために出かけるとこ
ろを見掛けたりしています。また、彼女の家の奥の方には「ケーキの原っぱ」というのがあって
ケーキは慶喜だということを知らなかったみたいです。そこで、暗くなるまで、フジョンちゃんや
近所の子供達と遊び呆けていたんですね。

前書きにも書かれていますが、3姉妹ともほぼ同時期に連れ合いをなくし、「年も取りました。今、仕上げなければ、もう共感し、笑ってくれる人はいなくなってしまう」と焦ったようですが、
この3月に無事出版にこぎ着けることができたのです。
カバー装画は、友禅作家の生駒暉夫さんという方の作品だそうです。



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by tsc-edotyuu | 2005-04-29 23:55 | 乱読
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