桃谷方子「百合祭」読了

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69才、73才、76才、81才、91才 こういう年令の女子の中に、79才だけど、とてもカッコイ
イ男子を約一人放り込んだら、どうなるか?

本書は1999年、北海道新聞文学賞受賞、桃谷方子(ももたに・ほうこ)さんの作品です。
「百合祭」は、ゆりさい と読みます。桃谷さんは1955年、札幌生まれ。「北方文芸」等
に作品を発表されてるそうです。               講談社 2000年1月  刊

札幌 西一条橋 (miton.aさん、p_adoさん、これは実在してますか?)近くの毬子アパ
ートに三好輝治郎さんが引っ越して来るところから始まります。
このアパートには一人暮らしの女子が何人か生息していまして、彼女達のprofileは;
宮野理恵さん(73才)札幌ポプラ病院に通院していて、血圧降下剤、コレステロール緩和
        剤、精神安定剤、胃薬、利尿剤を常用しています。
        アパートでの付き合い方として、他人としての親しさを尊重したい、といいます。
        百合が好きで、いつも部屋に飾っています。この”百合”が非常に象徴的な意味
        を持っています。  この人の視点で話は進みます。
        三好さんから 菩薩、観音様 と称えられます。
里山照子さん(69才)は身長140cmそこそこ。搗きたての餅のように、たぷたぷ太っていま
        す。色白で、きめの細かい肌の持ち主です。 デシャバリだと宮野さんは言って
        ます。
並木敦子さん(76才)贅肉のな細身です。異性には潔癖なところがあるようです。
         三好さんから 天女、女神 と称えられます。
横田レナ子さん(81才)は70才まで薄野でバーを経営していました。男に関してはプロで
         す。未だに”女”をウリにしています。10才年下だった二度目の夫を72才の時
         に亡くしています。その大きな黒い瞳は、男性の意識を自分に向けさせるため
         に必要な表現を熟知しているようです。
         三好さんから マリア様 と称えられます。
北川よしさん(91才)骨と皮なのに体力があります。アパートに越して来る初めての男性
        に会った時、その股間に触ることによって自分のアイデンテイー(自分が女性
        であること)を確認するヘキというか習慣があります。
        猫が大好きで、ユージロー他2匹を、それこそ猫かわいがりしています。
これに毬子アパートの大家さんの奥さんが加わります。
毬子梅香さん(76才)並木敦子さんと女学校が一緒だったそうです。
          宮野さんによれば、深海魚が苦悶しているようで鮟鱇そっくりだそうです。
          アパートの猛者達からは、業つく婆あ、見栄っ張りと陰口を叩かれています。
          いかにも 成金 という格好をしています。

ここでヒーロー登場です。
三好さんは、背が高く、スリムです。白髪をオールバックにしていて、いつも櫛目が通ってい
      ます。宮野さんの口を借りれば、「その顔は、まだなにかを追求しようとしているか
      のような鋭さと、柔和な落ち着きを同居させている鳶色がかった瞳や、話し終わる
      とただちに両端がきりりと締まる薄紅色の唇」を持っていて、とても魅力的です。
      自分でも、日露混血に間違われたと言うくらい、彫りの深い美貌なんですね。
      しかも、嫌味がなく、上品で、気さくです。

女子達は、みんなポーとなって、三好さんは歓迎されまくります。みんな恋する乙女のように
胸をときめかせるのです。
69+73+76+76+81+91=466/6=77.7 単純平均で77.7才の女子達が三好
さんの好意を獲得しようと努力する様は、いっそ、いじらしいものがあります。
並木さんも言います。「三好さんたら、あの通りクジャクみたいに華やかなんだもの。」
そして、三好さん争奪戦が始まる訳です。

ネタバレさせちまえば、三好さんは、宮野さん、並木さん、横田さん、毬子さんと愛し合って
しまうのですが、歓迎会で、それがバレても三好さんは、ちっとも悪びれず、むしろ堂々と
所信表明演説をブツのです。
「あなた方の一人一人が好きだ。だから口説きたいと思ったし、愛し合いたいと思った。」
「・・・人生を自由に生きようと思って・・・僕は、選ばない、という状態でいようと思った。」
選ばずに、遍く愛を分け与える---三好教ができそうなイキオイですね。案外こういう
ことから新興宗教が始まったりして。

百合ですが、宮野さんが三好さんと結ばれた時、(と言っても79才の爺様がモノの役に立とう
筈がなく、性○接触どまり) ポンという音をたてて花びらが開いたのです。
こういうシーンは本書ではここだけで、ちっともイヤラシクなく、むしろ神聖な儀式を執り行なう
という印象でした。
宮野さんを通して著者は百合について語ります。「滑らかな花びらのすべてを開かない百合
は淫らであり、可憐である。騒々しいようでありながら、密やかである。真夏の炎天の下でも
萎れない。無垢に強かに咲き続ける」
アパート脇の大家さんの庭にも百合がたくさん植えられており、著者は百合に特別の思い入
れがあるようです。

我々関東在住者にとっては珍しいことなんですが「札幌は、いわゆる花の歳時記に関係なく
咲く花が多い。水仙とひまわりが揃って咲いたりもする。・・・5月の頃には、早春の花、春の
花、初夏の花がいっせいに咲く。さながら百花繚乱の観がある。」という描写も楽しいですね。


さて、三好さんの行状を見ていると、これは老カサノヴァの日本版かと思われそうですが、
いいえ違います。
主題は「老人の生き方、暮らし方、楽しみ方」がテーマの、素晴らしい小説なんです。
こんな文章があります。
「年を取るとともに、若い頃にはそれぞれあった特徴がなくなっていく。みんな、いちように
老人の顔になっていく。男でもなく女でもない”老人”という顔である。しかし、その顔こそが
生きるということは、老いていくことなのだ、と告げている。」
ウチの家人もよく言ってます。「赤ん坊と年寄りの顔はみんな同じようだ。」
三好さんが言います「若いとか老いたとかじゃなく、”生きている”ってことが大事なんじゃない
かい。僕は今年79才になるが、若さが羨ましいなんて思ったことはないな。僕より年がいって
る人になら羨望するがね。」
「・・・生きれば生きるほど楽しくなるということに気がついたんだな」
「昨日、死ななかった、だから、今日生きている。これは確実なことだ。昨日死んだ人間は
今日は生きていないからね。僕たちは誰も昨日へは戻られない。けれど、明日を生きること
は可能なんじゃないか。明日を生きてさえいれば、明日、そこに自分が映るんだ。」


著者は、執筆当時、43,4才ですが、深い愛情と洞察でもって、懸命に、真面目に、これを
書いたことが窺われます。



乱読状況 : 桐野夏生「グロテスク」乱読始め  



 
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by tsc-edotyuu | 2005-05-14 20:55 | 乱読
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