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山口正介「道化師は笑わない」 再掲

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山口正介さんという人は、学校で演劇を学び、その後、オペラを含むさまざまな演劇の演出
制作に携わったとい経歴の持ち主。 その経験を生かして初めて書いたエンターテインメントが本書。5年かかったという。

「道化師」は、ご存じ、ヴェルデイの「リゴレット」。
オペラ自体のあらすじは簡単。北イタリアの都市国家マントヴァの君主マントヴァ公爵は
名だたる色好みで、手当たり次第、女をものにしてしまう。権力を乱用し、そして生来の男前で家臣の妻女、娘にも平気で手を付けまくる。たとえ伯爵の地位にあっても妻を寝取られたことに文句を付けようものなら、反逆者として投獄されてしまう。極悪非道の君主だ。
リゴレットは公爵の宮廷の道化師で、面白いことを言ったり、やったりして盛り上げるのが商
売で公爵の漁色活動?にも手を貸していて、家臣達からは嫌われている。当然だよね。
ところが、こともあろうに公爵がリゴレットの一人娘に目を付けてしまう。それに気づいたリゴ
は娘を隠すが、彼に反感を持つ家臣達にハメラレ、公爵はついに娘ジルダをgetしてしまう。
娘を溺愛していたリゴは怒り心頭、主君に復讐することを決意し殺し屋を雇う。
約束の場所へ殺し屋が死体を入れたズダ袋を運んできた。そして袋を開けて中身を見たリゴ
の目に入ったものは、憎っくき公爵じゃなく、なんと変わり果てた我が娘ジルダであった。
身も世もなく嘆き悲しむ道化師リゴレット・・・

さて本書。
私大4年の木村はオペラのことを勉強したくて教授に頼み、恰もオペラ「リゴレット」をやろうと
している、高名な演出家・田所を紹介して貰うが、いきなり演出助手は無理だからと、舞台監督(舞監という)の大野のもとへ行かされ、その仕事を手伝うことになる。
先輩から、こづかれ、ドツカレ、木村は舞台の仕事を徐々に覚えていくのだが、著者はプロだ
けあって、実際に舞台、劇そのものを創っていく課程を、詳しく、煩わしくなく描写していくので
本書を読めば大学の演劇科の課程の半分くらいは、済んでしまうんじゃないか
演劇では演出家が一番エライと小生なども思っていたけれど、実際に力を持ち、責任が最も
重いのは舞監だということが判った。乱読の一効果かな。大道具、小道具等ハード部門だけ
を担当するのが舞監だと思われているけれど、ソフト面でも全責任を持ってるようだ。
 木村は舞監助手の手下を、フーフーいいながらやっていくうち、リゴレットの脚本の矛盾に
気が付く。それは、ズダ袋で死体になっていたジルダが、リゴと一緒に歌い出すことだ。
死人が何故起きあがって歌うんだ?この疑問を周囲に投げかけるのだが、誰も彼を納得させ
てはくれない。ずっと昔から、この矛盾は判ってはいたけれど、そのまま演じられてきたらし
い。田所との雑談に、彼が或る解釈を述べると、田所は烈火の如くイカリ出し、木村を罵倒
する。
その頃から、木村に変なことが起き始める。何十キロというライトが彼めがけて落ちてきたり
奈落に転落しそうになったり、部屋が荒らされたり、メモ帳(ツケ帳といって極めて重要)がな
くなって又出てきたり・・・
実は、田所、もう落ち目だとか、才能が枯渇したとか言われ、起死回生の一発逆転を期して
このオペラに取り組んでいるのだが、稽古、準備が95%終わって公演まで僅かしか時間が
ないのに、新しい解釈も思い浮かばず、進退窮まっているのだった。
そこへ、名もない学生アルバイト風情が、ジルダの矛盾に関する思いつきを言ったので、し
かもそれが前人未踏の新解釈だったため、殺意が生じたのだ。(ネタバレですね)
その新解釈とは何か?田所の心の動きは?そして木村は無事にラクを迎えられのか?

演劇について詳しくなり、そしてサスペンスも楽しめる、そんな本でした。
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乱読状況 : 森田靖郎「中国人犯罪グループ」乱読始め。
by tsc-edotyuu | 2005-04-13 13:18 | 乱読
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